2026.9.5
(解説)OECDティーチングコンパスをひもとく(5)「主体的な学び」を支える教師とは
会員の皆様に解説記事をお届けする企画です。今回は「OECDティーチングコンパスをひもとく」シリーズをお送りします。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(博士後期課程)に在籍する学生たちに解説を担当していただきました。それぞれが関心をもった考え方や用語についてご紹介いただいております。最前線で学術研究に取り組む学生たちが、何に興味をもっているのか、ぜひご期待ください。
広報委員会
「主体的な学び」を支える教師とは― Learning CompassとTeaching Compassをセットで読む
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科/静岡県富士市立岩松中学校 遠藤みなみ
OECDは、2019年に、学生が2030年以降に成長するために必要なもの、例えば学生の主体性、学生の幸福、そして必要な能力(知識、スキル、態度、価値観)の種類などについて、幅広いビジョンを示す「Learning Compass 2030(学びの羅針盤)」として公表しました。
Learning Compassが「学習者の羅針盤」だとすれば、Teaching Compassは、「その航海を支える教師自身の羅針盤」といえるのかもしれません。
OECDはLearning Compassにおいて、「生徒エージェンシー(Student Agency)」を重要な概念として位置づけています。これは、「自ら目標を設定し、振り返り、責任をもって行動し、よりよい変化を生み出す力」です。
日本でも、学習指導要領改訂以降、「主体的・対話的で深い学び」、「探究」、「個別最適な学び」、「協働的な学び」など、「子どもの主体性」を重視する方向へ教育観が大きく転換してきました。
教師であれば、子どもが自ら学びたいと目を輝かせたり、何かに没頭したりする姿に、大きな価値を感じるものではないでしょうか。そして日本には、子どもの主体性を育む教育について、長年にわたり授業研究を積み重ねてきた歴史があります。
一方で、ここで改めて考えたい問いがあります。「子どもに主体性を求める教師自身は、主体的に働くことができているのだろうか」という問いです。
OECDがTeaching Compassを提案した背景には、まさにこの問題意識があります。Teaching Compassでは、Learning Compassを実現するためには、教師自身もエージェンシー、コンピテンシー、ウェルビーイングを保障される必要があると述べられています。
Teaching Compassでは、「Learning Compassを実現するためには、教師自身もエージェンシー、コンピテンシー、ウェルビーイングを保障される必要がある」と述べられています。
つまり、「学習者にAgencyを求めるなら、教師にもAgencyが必要」「学習者にWell-beingを求めるなら、教師にもWell-beingが必要」「学習者に変化への適応を求めるなら、教師にも専門的成長が必要」という、「対称性」の発想です。
これは、日本の学校現場を考える上でも重要な視点かもしれません。
例えば、「主体的・対話的で深い学び」を実現しようとしても、教師が細かな実施方法まで固定された状態では、授業改善は「やらされる改革」になりやすくなります。
また、探究的な学びを支えるには、教師自身も、試行錯誤する、同僚と対話する、実践を振り返る、自分なりの教育観を問い直す、といった営みを行う必要があります。
Teaching Compassは、教師を単なる「教育政策の実施者」としてではなく、「教育課程の変化を担う主体(agents of curriculum change)」として捉え直そうとしています。
さらに、これは「教師の努力」だけに依存するモデルではありません。「教師が主体的に学び、挑戦し続けられる環境をどう支えるか」という問いを、学校組織や教育政策、教育関連企業、研究者に投げかけているようにも読めます。
Learning Compassだけを読むと、「未来の学び」の話に見えます。しかし、Teaching Compassまで視野を広げると、「その未来の学びを、誰が、どのような状態で支えるのか」という問いが見えてきます。
(出典)
OECD Teaching Compass:
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-teaching-compass_8297a24a-en.html
OECD ティーチング・コンパス(教師の羅針盤):日本語訳
OECD Learning Compass:
https://www.oecd.org/en/data/tools/oecd-learning-compass-2030.html
OECD ラーニング・コンパス(学びの羅針盤):日本語訳
https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/about/projects/edu/education-2040/concept-notes/OECD_LEARNING_COMPASS_2030_Concept_note_Japanese.pdf
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