2026.7.1
(解説)OECDティーチングコンパスをひもとく(3)教師は何を“アンカー”にするのか
会員の皆様に解説記事をお届けする企画です。今回は「OECDティーチングコンパスをひもとく」シリーズをお送りします。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(博士後期課程)に在籍する学生たちに解説を担当していただきました。それぞれが関心をもった考え方や用語についてご紹介いただいております。最前線で学術研究に取り組む学生たちが、何に興味をもっているのか、ぜひご期待ください。
広報委員会
教師は何を“アンカー”にするのか
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科/新潟青陵大学 堀田雄大
OECDティーチング・コンパスでは,船を例えに,コンパス(羅針盤)が進むべき指針となると述べています。どこに進むのか,何を目指して進むのかを示す指針です。
この指針に沿って進む際,変化が激しい中ではきっと,「本当にこの進み方でいいのだろうか」と自問することがあるかもしれません。
例えば,生成AIを活用した授業実践を試してみたとき。あるいは,新しい教育方法を学びながらも,「自分が本当に大切にしたい授業とは何だろう」と立ち止まるときです。
そんなふうに迷いながら進む教師の“軸”となるのが,ティーチング・コンパスにおける「アンカー(錨)」という考え方です。
ティーチング・コンパスでは,このアンカーを,「Being」「Belonging」「Becoming」という3つの言葉で表現しています。
「Being」は,「教師としてどうあるか」という視点です。
例えば,子どもへの声かけ一つをとっても,「まず安心して話せる教室をつくりたい」と考える教師もいれば,「自分で考え抜く力を育てたい」と考える教師もいます。教育の進め方は違っても,そこにはそれぞれの教師が大切にしている“軸”があります。
ティーチング・コンパスは,こうした「なぜ自分は教えるのか」という感覚を,教師にとっての錨として位置づけています。日本の教育では,これまで「教師としての使命感」という言葉で語られてきた部分とも重なるかもしれません。しかし,ここで重視されているのは,「理想の教師像」に自分を無理に合わせることではありません。むしろ,「等身大の自分に錨を下ろす」ように,自分自身の価値観や実践を見失わないことが重視されています。
「Belonging」は,「誰とどうつながっているか」という視点です。
一人では思いつかなかった授業アイデアが,同僚との雑談から生まれることがあります。あるいは,「その声かけよかったね」と何気なく言われた一言が,次の授業の支えになることもあります。
ティーチング・コンパスでは,こうした関係性もまた,教師にとっての「アンカー」として捉えられています。教師の専門性は,個人の知識や技術だけではなく,「誰とつながりながら実践しているか」という関係性の中でも育まれていく,という考え方です。
「Becoming」は,「どうなっていくか」という視点です。
教師を続けていると,授業の進め方だけでなく,「自分はどんな教師でありたいのか」という感覚そのものが少しずつ変わっていくことがあります。ティーチング・コンパスでは,こうした「教師としてどうなっていくか」を,「Becoming」という言葉で表しています。
3つに共通しているのは,Being・Belonging・Becomingのすべてが,“現在進行形”で表現されている点です。つまり,教師として完成することを目指すのではなく,「どうあるか」「誰とつながるか」を問い直しながら,自分自身も変わり続けていくことを大切にしています。
3つのアンカーは,「こう変わるべきだ」と理想を投げかけているというよりも,自分は何を大切にしながら教えているのかを,立ち止まって考えるための言葉として読むことができそうです。
(出典)
OECD Teaching Compass:
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-teaching-compass_8297a24a-en.html
OECD ティーチング・コンパス(教師の羅針盤):日本語訳